農家ハンター応援団 フォトライターの髙木あゆみです!2025年5月彼らの現場で見て感じた事をレポートいたします。
熊本県宇土市網津町では、イノシシやアナグマなどの動物の出没が多く、家庭菜園が荒らされるなど生活被害が報告されています。地域住民の声をもとに、有害鳥獣対策の現状をレポートします。
【レポートのポイント】
▶︎宇土市網津町のイノシシ被害とその現状
▶︎次のステップ:住民主体で進める鳥獣対策マップ作り
▶︎行政と住民が協力して取り組む鳥獣害対策
▶︎鳥獣害対策が進まない原因と生活被害の背景
宇土市網津町のイノシシ被害とその現状
宇土市網津町は山に囲まれた小さな集落。住民20名が集まった有害鳥獣対策のセミナーでは、以下のような声が上がりました。
公民館に集まったのは20名ほどで、そのうち5名は女性でした。農家は5名、猟友会の方は3名。みなさん家庭菜園をしています。この地域にはアナグマやアライグマもいますが、深刻なのはイノシシ被害です。この地域での困りごとをお聞きしました。
⚫︎ 家庭菜園を荒らされた
⚫︎ 時間に関係なく出てくる
⚫︎ 家庭菜園していたらイノシシが出てきて威嚇してくる
⚫︎マルチシートの上を歩いて穴を開けられる
⚫︎たけのこ掘りに山に入ればひどいありさま
⚫︎小屋に置いていた米を食べられた
⚫︎イノシシの親子が道を歩いている。危なくて子ども孫を外で遊ばせられない
⚫︎学校の行き帰りも心配
被害は時間帯を問わず発生し、特にイノシシの出没が生活に大きな不安をもたらしています。女性や高齢者も積極的に会に参加しており、地域全体での対策が急務だと感じていることが伝わりました。
たっちゃんの話のハイライトはいつも「自分たちが主体となって地域を守ろう」ということです。その上で、困り事や希望を聞きながら、ノウハウや次のステップを示して対策に繋げていきます。
住民主体で進める鳥獣対策マップの作成とは
「住民が主体となって鳥獣対策をする」の次に出てくるのは、「どうやって?」という疑問です。
次のステップとして鳥獣対策マップづくりを提案しました。
鳥獣対策マップづくりは、その地域の大きなマップを用意し、動物を目撃した場所、被害があった場所、痕跡があった場所、通り道などをシールや文字で書き示していくものです。被害の分布や動物の動線が「見える化」され、地域における被害の全貌が見えてきます。
それまで皆さんが持っていた“点”の情報を、“線”にし、面的な対策ができるようになるわけです。
地域での講演やセミナー前、講師の稲葉たっちゃんはその地域をぶらりと見てまわります。事前に、どこでどんな鳥獣対策がされているのか、どこから野生動物が集落や畑に来ているかチェックすることで、その地域に必要なお話ができます。
網津町は動物にとって居やすい環境が揃っていました。
山から近く、集落に出て来やすい。沢が流れ、家庭菜園で食べ物は充実。ネットはあっても電気柵やメッシュ柵などはなく、入りやすい。茂みや小屋など隠れ場所にも困りません。
情報をマップに落とし込むことで、防護策設置の場所や種類、隠れ家となりそうなしげみの管理などについて計画しやすくなります。
行政と住民が協力して取り組む鳥獣害対策の重要性
「狩猟免許を持っている方が3名いますが更新が面倒。高齢だし、もっと簡素化してほしい」という意見がありました。
安全に関わることなので慎重さは重要だと思いますが、今のところは捕獲することもないため狩猟免許がなくても困らないということなのかもしれません。
有害鳥獣対策がすすめば狩猟免許の必要性もかわってきます。今後のために地域の若い方が取得していけるといいですね。
「行政をあてにせず、自分たちで対策を担っていかなきゃいけないのは難しく感じる」という率直な声もありました。
行政と住民が連携することで、有害鳥獣対策の効果は高まります。
行政と地域をつなぐのが得意な楠田さん、
「住民主体となり、自分たちで対策を学んだ上で行政に相談すると行政もサポートしやすい。”自分たちでやる”というスタンスが大切」だそうです。
たっちゃんからは、
・「誰かがしてくれるだろう」と捉えていて、被害が大きくなっている地域が多い
・潜み場をなくしたり、家庭菜園で出た残渣や放置された果樹を食べさせないようにするなど、小さく少しずつでも対策していくといい。
そして、「目撃情報は多く不安は大きいものの、もっと事態が深刻になる前に早め早めの対策をしていってもらいたい」と呼びかけました。
鳥獣害対策が難しい原因と生活被害の背景
「住民主体で対策をしていく」という視点を持つことが難しい理由として、被害の特徴があるようです。
この地域は農業被害ではなく、暮らしに影響がある”生活被害”がメインです。
農業被害ならば、対策のための勉強会があったり防護柵の補助金があったりと情報にアプローチしやすいものです。
では生活被害だったら・・・?
もし我が家の庭先にイノシシが出てきたら、慌てふためいて「警察なの?消防なの!?まずは市役所か!」 となるだろう自分が容易に想像できます。そして「どうにかして〜」と必死に訴える気がします。
自分や家族、家を守る術がなければ「行政どうにかしてください」となるのは、自然なことではないかと思うのです。
行政に頼るのが間違っているわけではありません。ただ生活被害の場合は農業被害と比べると情報が行き届きづらい現状のようです。(家庭菜園は、生業としての農業ではないのでここでは生活被害とします)
いずれにせよ、野生鳥獣問題を学ぶようになって分かったのは、「行政だけでは解決できない」ということ。
行政が全てをカバーできないし、行政のフォローを待っている間に被害は増えます。
行政の支援も大切ですが、各家庭で災害に備え有事の際は地域で団結する必要があるのと同じように、野生動物から生活や家族を守るためには各自が学び、地域で備えていくことが必要になってきます。
網津町ではこの日のセミナーが第一ステップとなりました。
宇土市には網田町上床地区のような好例もありますので、横の繋がりも強めながら網津町にとって良い対策ができることを願っています。