農家ハンター応援団 フォトライターの髙木あゆみです!
2023年6月彼らの現場で見て感じた事をレポートさせていただきます。
今日お届けするのは、「その後」です。
なんのその後かと言うと、鳥獣対策レクチャーの、その後です。
4月に、地域の皆さん20名で戸馳島に視察に来られたのが2022年の4月。1年2ヶ月前です。
【以前の記事】
①農家ハンターへの研修 https://farmer-hunter.com/blog/3013
②上床地区での金柵はり https://farmer-hunter.com/blog/3364
稲葉たっちゃんとわたしは、宇土市網田の上床地区の現状をお聞きすべく、
福島区長さんを訪ねました。
【始まりの合図】
上床地区の鳥獣対策は、福島さんの掛け声で始まりました。
集落にイノシシが来るようになったこと、
農作物への被害、
そして地域を潤す水源の周辺をイノシシが荒らしていることに危機感を覚えた福島さん。
それから、馴染みの宇土市議会議員に相談し、
農林水産課に繋がり、農家ハンターの活動に辿り着きました。
住民による鳥獣対策、地域ぐるみの鳥獣対策の必要性を、
農家ハンターはずっと訴えてきました。
稲葉たっちゃんの講演でそのことを聞き、福島さんは一念発起し上床地区での鳥獣対策が始まりました。
【地域の皆さんの変化】
高齢の方が大部分を占める上床地区。
女性を含むみんなで農家ハンターに視察に来たことで、みんなの思いが一つになったそうです。
「イノシシは狩猟免許を持っている人に任せとけばいい」
「行政がどうにかするだろう」
という意識が、「自分ごと」に変わったのは、
来れる人みんなで視察にいったからだと福島さんは言います。
罠をかけたって、みんなで対策しなければ、効果は薄い。
だから「みんなでしようや、部落を守ろうや」と声をかけ、みんなを巻き込んできました。
「部落のお金は、部落のためになることに使わないかん。
イノシシの対策にお金を使って、みんなが良かったといわれるものにしなければいけない。
成果を出さないといけない」というプレッシャーもあったようですが、
農家ハンター、宇土市協力のもと、一つの箱罠で14頭とれたのは、成果の一つと言えます。
【誰もしたくないこと】
農家ハンターでの研修の後、若手の男性が、地域のためにと狩猟免許を取得。
見回り、止め刺し、埋設を行います。
(区長さんも、宣言通り、見回りをされているそうです)
捕獲までは工夫が必要だし簡単ではないですが、本当に大変なのは捕獲した後。
「なかなか止め刺し(命を終わらせること)が難しい。
イノシシがギャーっと鳴くのがしんどい…」
とその方は話しているそうです。
若かろうが力があろうが、精神的にとても負担が大きいのです。
地域を守るという大義名分があっても、当事者はなかなか割り切れない苦しさを抱えるのも事実です。
「それはよく分かる。しんどかですよ。特にかわいいウリ坊なんて、誰もころしたくなかっですよ」
精神的な負担が少しでも軽くなるように、たっちゃんからも道具のアドバイスがありました。
止め刺しの後は埋設。これがまた肉体労働です。
体力的な負担を軽くするために、区でユンボの購入を検討中だそうです。
【住民主体・行政からの協力】
上床地区の良さは、あくまで住民が主体であるということ。
その上で、行政ともうまく連携をとっています。
住民主体で進ありがながら、そこで困ったことは市の議員さんや行政に相談しています。
宇土市では、市が積極的に鳥獣対策のセミナーを開いていて、農家ハンターへの視察なども市が請け負ってくれました。
農林水産課の担当の方がよく理解されていることも、助かっていると福島さんがおっしゃっていました。
「こんなことをしている」と市に伝えると、利用できる補助金についても教えてもらうことができ、とても良い関係です。
福島さんから、
「補助金があってもなくても、対策はせなん。でも市が協力してくれるとは助かる」
というお言葉がありましたが、こんな関係は素敵ですね。
農家ハンターでのレクチャー以後、市が箱罠を3つ貸してくださいました。
そのうちの一つは、1年で14頭も捕獲しています。
「自分たちの地域や畑は自分たちが守る」
という農家ハンターマインドを、上床地区は体現しています。
【みかんを守れんと、生活を守れん】
上床地区が、ここまで熱心なのには理由があります。
地域の特産である柑橘を育てる農家さんが多く住んでいます。
大切な収入源です。
柑橘が食べられてしまっては、生活に影響します。
他に仕事があるならいいかもしれないけど、
農業が生活を支えている地域や人にとっては死活問題。
地域を守るというのは、
地域に暮らす人の生活を守るということ。
「ここには柑橘しかないけん。やられたらどうしようもない」
区長さんが一生懸命なのは、地域の人を守りたいからです。
【違う地区でも】
鳥獣対策は、「よくイノシシ出るね」となってからでは遅いと言われます。
福島さん、ご自身の経験から
今はあまり被害のない地域でも、早々に取り組んだほうがいいと進言しているそうです。
イノシシさんが出没して、直接的に困るのは農家さん。
そのことをどれだけ深刻に受け止め、具体的に自分たちの手で対策をするかは、リーダーに委ねられます。
【畑を守る2つのポイント】
「イノシシを寄せ付けない地域づくり」は2つのポイントを押さえることが欠かせません。
①餌付けをしない
②耕作放棄地を開く
福島さんのご自宅の目の前も、耕作放棄地となっています。
耕作放棄地の対策として、
「一旦全部刈ってしまったあとに、どんぐりやくぬぎなど、落葉する木を植えたら草が生えにくくて管理しやすかですよ」
といったアイディアをたっちゃんから福島さんへ伝えました。
上床地区に暮らす、80代の独居老人の方の例も上がりました。
ある時、「庭でイノシシが寝てる!いますぐ来て!」と福島さんへSOSの連絡がありました。
福島さんが駆けつけるとイノシシは驚いてピューっと逃げました。
イノシシがいたところには、ごろんとするのに良さそうな藁が。
その藁をベッドに眠っていたようです。
人間の生活圏なので、人間以上に危険な敵はいません。人間も、多くはイノシシに危害を加えません。
餌ではないけれど、これもイノシシにとっては良い環境。
ということで、イノシシが暮らしにくい集落を作るのが、地域を守ることに直結します。
【イノシシで一致団結】
みんなで視察をし、共通の問題意識を持てたことで、対策がスムーズに進み、
地域のまとまり感が出てきたと感じているそうです。
福島さん、
「上床地区は住民が頑張って自分たちの手で鳥獣対策をして、
地域を守っていく。第二のイノP(農家ハンターの活動を支える実行部門)ば目指します!」
と力強い!!
宇土市網田・上床地区の「その後」、いかがでしたか?
農家ハンター試行錯誤の7年、包み隠さず成功と失敗のエッセンスを伝えてきました。
上床地区では、技術だけでなく農家ハンターが大切にしていることもしっかり受け止めておられます。
それが本当に素晴らしいなと個人的には感激しました。
今回の訪問でたっちゃんと現場を見て、設置した箱罠の位置や向きを変更し捕獲率をあげようと福島さん熱心です。
「7月半ばから、イノシシさんの数は一気に増えます。
今がちょうど出産するかもうすぐか、という時期。
7月以降の被害を増やさないよう、今準備しておくとよかです」とたっちゃんより。
宇土市は鳥獣対策セミナーを開催したり、上床地区の要望を受けて農家ハンターの研修を手配するなど、
対策にお金(税金)をかけています。
上に書きましたように、この地区の箱罠は市から借りているものです。
大切な税金がこうして地域の困りごとを解決するために役立っている様子が見えました。
福島さん、またみんなで戸馳島に研修に来たい!とやる気満々です。
こんな地域が全国津々浦々に増えていくといいなぁ〜!